着付けサロンadenabito竹岡静香さんインタビュー②
サロン”は学び楽しむ空間
―――――あでなびとは着付「教室」ではなくて「サロン」なのですね。
竹岡さん:「教室」という言葉は、先生と生徒が主従関係にある、いわば力が上から下に流れている感じがしますが、「サロン」は知っている人が知らない人に教え合い、学び楽しむ。つまり力は横へ双方向に流れている感じがします。
あでなびとのコンセプトは、「おしゃれ着に着物を着て、艶やか(あでやか)に」。心身ともに輝く女性になってほしいと考えています。そのために大切なことは、やはり楽しむということ。
着物を着てサロンでお茶を楽しむような空間…そんな思いから「サロン」と名づけました。
―――なぜ着付けサロンを始められたのでしょうか?
竹岡さん:私は、もともと東京都でシステムエンジニアをしていました。当時は金融のインフラシステム開発に携わり、お客様の課題や要件を聴き、システムとしていかに実現できるかを考え可視化する業務を担当していました。
新入社員の時から仕事の傍らで着付を習い始め、3年かけて民間着付教室の師範免許を取得していたことと、仕事が少し落ち着いてきたこともあって、「何か私にもできないか」と思い立ち、会社で着付けサークルを立ち上げたのがきっかけです。
メンバーを募集したところ30名以上の応募があり大盛況。そのときに着物を着る楽しみを伝えることができた喜びを実感しました。
その後同僚だった主人と結婚し、1人目の子供の産休中だった2014年に、副業として着付けサロンを始めました。
やがて何年か経った頃、夫婦で今後の生き方を話し合うようになります。子供3人の育つ環境も含め、このまま会社で20年近く働き続けることが、本当に私たちの望む形だろうか?と突き詰めていったところ、「自分が素敵だと思うことを周りの人に伝え、時間を分かち合う中で生きたい」という思いが強くなり、退職を決意。
埼玉から、主人の実家のある三重に移り住み、私は自宅で着付けサロンを、主人はプログラミング教室を開くことにしました。
私の好きなことは、着物を着ることで気分が上がる瞬間を感じること。学ぶだけではなく、もう一歩踏み込んで楽しさを味わえる空間を作りたかったのです。
「中古の着物」と「楽しい先生」から始まった
―――竹岡さんはなぜ着物を始められたのでしょうか?
竹岡さん:新入社員の頃、たまたま入った表参道のリサイクルショップで1枚の中古の着物に一目ぼれしたのです。それが先日のイベントで着用した黒のしま模様の染め小紋です。着物のきの字も知らない私に衝動買いをさせるほどの存在感を放っていました。手触りが柔らかく、全体的に抑えた色味にも関わらず自然な光沢を帯びていて、思わず目が離せなくなってしまって。
しかし買ったのはいいけれど、やはり着られない・・・
この輝きをどうしても身にまといたいという強い思いから、青山にある某教室の門をたたきました。
その先生は、コーディネートのセンスの良さはもちろん、人間味あふれる面白い先生だったのです。私の着付を見ては「いいじゃない、いいじゃない!」とできるようになったことを褒めてくださり、笑いのある柔らかな空間でのレッスンがとても楽しかったのを覚えています。
ふとした瞬間に手にした中古の着物と、着物が与えてくれた面白い先生とのご縁。こうして私の着物ライフは、”楽しいもの”として始まりました。
感覚にロジックをプラスする
―――そんな明るい先生のいらっしゃる空間なら私も通いたくなったと思います。しかし実際は、着付け教室の先生は「怖そう」「厳しそう」というイメージをもたれている方が多いように思います。
竹岡さん:そうですね。私も自分が習うまでは「先生は厳しそう」というイメージを持っていました。でも実際は違っていました。先生が怖い必要はなく、学び楽しめることが一番大切だと実感しました。
今の私が何かを学ぶなら「楽しむ」という感覚は外せません。自分が通いたいと思う空間を皆さんにご提供したいと考えています。
―――国家資格取得コースもありますが、そちらはどのような雰囲気でしょうか?
竹岡さん:国家資格取得コースも同様です。まずは資格をとることを楽しんでもらうことが大前提です。それでも楽しさだけではなく、しっかり要点を抑え、なぜそうするのかという根拠も合わせてお伝えするようにしています。一つ一つの着付けの手順には意味があり、それらが繋がり凝縮されたものが着姿となるからです。
また国家資格取得コースだけでなく、一般コースにも学科レッスンを設けています。多くの着付け教室では、手順を学ぶことがメインですが、あでなびとでは着物の格・TPO・季節感などのルールや、文様・素材・産地などの和装の基本の知識も合わせて学んでいただけます。
着物は感覚で覚えるだけでなく、ロジックをプラスして学ぶと理解しやすく、上達が早いと感じています。そのように考えるのは、もしかしたらSEとして「成果を最大限にする工程」を試行錯誤していたころに培ったものかもしれませんね。
いつかは和のテーマプレイスに
―――今後あでなびとをどのようなサロンにしていきたいと考えていますか?
竹岡さん:今は着付けを学び合うサロンですが、いつかは着付けを超えたサロンになることを願っています。例えば、着付け、お茶、着物を着てさまざまな体験ができるなど、「和」をテーマにした人々が集う場所、着物を着て訪れたくなる場所にできたらと考えています。
―――先日のイベントのような空間でしょうか?
竹岡さん:そうですね。具体的には、さまざまな伝統文化とコラボした講座を開催するなど、着物にまつわる楽しい瞬間をもっともっと増やしていきたいです。
ただ一人の力には限界があります。でも人が集まれば、世界はどこまでも広がります。「和」を通じて一人一人の可能性を広げるお手伝いができたら嬉しいですね。
―――最後に着物をまとった自分を見てみたいと思っている皆さんへメッセージをお願いします。
竹岡さん:着物には、着た人だけが感じられる「目に見えない魅力」があります。疲れていても着物を着ればリフレッシュになったり、心が浄化されるように感じることさえあります。
皆さんの心が豊かになるお手伝いをしたいと考えています。もし着物を少しでも着てみたいと思うなら、ぜひ一度遊びにいらしてください。見学でも体験でも、着物以外の「和」のお話を聞いてみたいという方も大歓迎です。
取材後記
このサロンは、竹岡さんの明るく竹を割ったようなさっぱりとしたお人柄と、柔らかでモダンなセンスが広がる心地よい学びの場です。生徒さんたちの笑顔の多さがそれを物語っていると感じました。また雰囲気に劣らないだけの充実した学びがあることが、生徒さんからの信頼をより厚くしていると思います。もし、着付は「古風で、厳しくて、先生は怖そう」というイメージのために二の足を踏んでいる方は、一度着付サロンadenabitoで着物をめぐる楽しい時間を味わってみてはいかがでしょうか?
ここには、モダンで、温かくて、同じ志をもつ仲間と明るい先生との「特別なきもの時間」があります。
桐嶋つづる